【特集】 砥部焼窯元 ひろき窯(ひろきがま)

数ある砥部焼の作り手の中でも異彩を放っている『ひろき窯』。多川ひろきさんが生み出す器には砥部焼には珍しく、いっさい絵付けが施されていない。主張は控えめなのにその佇まいからは凛とした強さと美しさ、実用性の高さを感じる。

 

 

「私の思う砥部焼は、暮らしに根づいた“民芸品”です。つねに使う人の立場に立って器を作ることを大切にしています。しかし使いやすさという点だけで考えると、安価なものでも用は足りてしまう。そんな量産品にはない砥部焼だけの良さを見つけていきたいと思っています。と、多川さんは話す。

 

 

—多川さんが器に惹かれることになったルーツを辿ると、母親が営んでいたという民芸品店にあるようだ。—

「幼い頃は野球をしたり田んぼや畑で遊んだり、ごく普通の子ども時代を送っていました。私の母が昭和20年代ごろから松山で民芸品店を営んでいたのですが、当時そこで取り扱っていたもののひとつが、阿部祐工氏が手掛けた『祐工社』の器でした。家族で囲む食卓にもよくその器が並べられていて。今思い返すと小さい頃からそのものが持つ何かに惹かれていたんでしょうか。器や民芸のジャンルには自然と親しみを感じていたんだと思います」。

 

 

—26歳のときに福岡県へ渡り、民芸界の重鎮といわれる阿部祐工氏に師事。修行を積んだのちに独立し、現在に至る。—

「農業関係の仕事を辞めて26歳から北九州市の『祐工窯』で住み込みの修行を始めました。まずは、師匠の作品を同じように作れるようになるというところからのスタート。当時の弟子は私だけで、師匠とその息子の眞二さんと一緒に器作りに明け暮れたものです。師匠は一言でいうと学究肌の人。普段は温厚でしたが、仕事に対しては「どんなに労力をかけても作品が良くなければ駄目だ」という厳しい一面もありました。そして「上手だろうが下手だろうが絶対に5年間は修行を積むこと」というのが鉄則。私は31歳でその5年の期間を終えたのですが、まだ技術が不十分だと思い延長を申し出て、結果、6年間の下積み時代を送りました。本当に一から、たくさんのことを教わったものです。その後地元に戻って松山市に『ひろき窯』を開設。のちに今の砥部へと移り住んできました」。

 

 


—修行中から独立後もしばらくは陶器を主に作陶。『ひろき窯』で磁器を作り始めたのは5年ほど前からだという。—

「師匠が手がけていたのが陶器だったこともあって私もしばらくは陶器を作っていたのですが、徐々に磁器に切り替えて今ではすべて磁器になりました。磁器の質感の良さに関心がありましたし、「せっかく焼き物を始めたのだから磁器もやってみたい」という気持ちがあったんですね。砥部で採れる土は質が良くて比較的扱いやすいのが特徴です。磁器という素材は他の産地だと一部の作家先生だけが使えるもの、もしくは大量生産のために機械化されたもののどちらかに当てはまることが多く、両極端なんです。砥部焼のように手作り品が当たり前のように出回っているのは、砥部の土の質が良いというお陰もあると思います」。

 

 

—民芸の世界に強く影響を受けた多川さん。『ひろき窯』の器と民芸の共通点はどういった点なのだろうか。—

「使う人の立場に立って実用本位で作られていること、手作り手描きの技法を受け継いでいることだと思います。そしてそれに加えて私が最も重視しているのが“郷土色”。材料の特徴が作品に色濃く反映されるので、出来る限り地産地消で、その土地で採れるものを使っています。他の場所ではなかなか手に入れることができない砥部ならではの雰囲気を感じとってもらえれば嬉しいですね」。

 

 

—白磁の美しさをまっすぐに感じられる『ひろき窯』の器は絵付けをしないシンプルな作風だからこそ、形の美しさが際立つ。—

「私は絵付けをしないので、表面にナイフで削りを入れて、それを装飾に見立てています。といっても、形を引き立てる程度の削りです。何にでも入れればいいというわけではないので、器全体のバランスを見ながら、必要なものにだけ手を加えていきます。これはかきべらで彫りを入れる“片鎬手”(かたしのぎて)と呼ばれる技法。力加減によって1本の線の中で彫りの深さを変えています。彫る作業は、器の表情を決める大切な工程のひとつです。深く入れすぎると穴が空くし、反対に浅すぎるとコントラストが出ない。あと、土が乾燥してくると削ったところの周りがどうしてもひび割れやすいので、そこも注意深く観察しながら整えています。ろくろを引くよりもずいぶんこっちに時間を費やしているかな(笑)」。

 

 

—今後の課題ややりたいことはまだまだ尽きないと語る多川さん。—

「いずれはまったくの無地で勝負してみたいと考えています。そこにどうやってひろき窯らしさを吹き込んでいくかですが、生地の色と形だけで魅せる無地の器が究極だと思っているので……最終的にそこに行き着くことができたら、理想的ですね。課題は? と聞かれると、まだまだ課題だらけですよ。新しいものも考えたいし、腕ももっと磨きたい。一生、勉強し続けたいと思っています」。

–多川さんの手仕事によって生み出される『ひろき窯』の器。じかに触れるとなおさら、使う人の目線で考えられた実用性としっかりした堅牢性が実感できる。丁寧に作られた器が並ぶ食卓は、日々の生活に豊かさをもたらしてくれるに違いない。—

 

 


ひろき窯
住所:愛媛県伊予郡砥部町五本松885-6
電話:089-962-7623


Profile:多川ひろき(愛媛県出身)
『祐工窯』の阿部祐工氏に師事。6年の修行期間を経て帰郷し、1994年に『ひろき窯』を設立。民芸の考え方を基盤とし、地元で採れる材料を活かした器作りに励む。

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