【特集】 砥部焼窯元 陽貴窯(ようきがま)

思わず目を見張るような、精緻な模様が描かれた器たち。一般的な砥部焼というと筆使いに勢いを感じるような絵付けが多いが、この器が纏った柄はどちらかといえば文様という言葉が似合うような、一風変わった佇まい。これらを作陶しているのが『陽貴窯』の田中貴美子さんだ。

 

 

「ひとつひとつの工程を丁寧に行なうということを念頭において、日々器と向き合っています。どこかの段階で少しでも手を抜くと、それは焼き上がりにまでずっと響いてきてしまうもの。そうすると、いいものは決して出来上がらないんです。私はすべてを一人でやっているので、誰のせいにもできませんしね」と笑う田中さん。

 

 

—田中さんが絵を描くことの楽しさに目覚めたのは中学生の頃からだという。—

「中学校時代の美術の先生がとても素敵な方だったんです。その影響で絵画や美術全般に興味をもつようになって、武蔵野美術短期大学へ進学しました。そのあと帰郷し結婚した夫もまた、絵を描くことを生業にしていて。それで結婚後は夫婦で絵画教室や作品展を開いたり、美術品の修復を請け負ったり。そういった美術、芸術に携わる仕事を30年近くしていたので、いつも絵を描くということは私にとってすごく身近で、生活の一部でした」。

 

 

—その後、自ら進んで陶芸の世界に入ることになった田中さん。—

「39歳のときに知人から紹介してもらって入ることになったのが『梅野青興陶園』。それまで作品展で砥部焼の陶板などに触れる機会はあったものの、焼き物を仕事をすることになったのはそのときが初めて。ろくろなどの成形技術を一から覚えたのもその頃ですね。形を作るという作業は技術も力も必要で難しく感じることも何度もあったのですが、陶画教室に通って教えを受けたり、分からないことは砥部の窯元さんに聞いたり。そんな風に周りの方々から助けていただいたお陰もあって、2005年に『陽貴窯』として独立することができました」。

 

 

—独立後は少しずつバリエーションを増やし、器づくりへの探究心を強めていった。—

「はじめはほんの数型でした。蕎麦猪口やお茶碗、あとは丼ぶりくらいの小さなものから作って、そのあと少しずつ大きなものにも挑戦していくようになりました。窯焚きって器を置く場所や温度など、そのときどきのほんの些細な変化によって色の出具合が違ってくる。だから、安定的に同じ色が出せるかというとそうじゃないんです。思い描いた通りに焼き上がることのほうが少ないくらいで、今でも頭をひねらせることが多いんですが、同時に面白さを感じる部分でもありますね。私は、器への絵付けには主に呉須を使っています。砥部に伝わる一般的なものから使い始めて、その後は徐々にアレンジを加えていき、調合して作るようになりました。現在は描く模様に合わせて4、5種類の呉須を使い分けています。線がシャープに出るものや柔らかい印象に仕上がるもの、筆跡に強さを感じるものなど、特徴もさまざまですよ」。

 

 

—そうして現在の『陽貴窯』へと続く代表的な器が出来上がっていった。—

「伝統的な唐草模様をベースにした「蛸唐草」や「枝唐草」、鳥のモチーフを更紗風に落とし込んだ「鳥更紗」。あと有田風の細かい「地文」(じもん)、「祥瑞文」(しょんずいもん)などが、長く描いている模様の一部ですね。器自体の形状と柄とのバランスを見ながら“ひとつひとつ丁寧に”ということを意識して、描き進めています。私、どうやら細かい柄を描くのが好きな性分なようで、余白はつい埋めたくなってしまうほどなんです。絵付けをしているときだけは他のことを忘れるくらいに没頭していて、頭の中が空っぽになっていくような感覚がありますね」。

 

 

—模様の発想やバリエーションはどのようにして生まれるのだろうか?—

「模様だけでなく形を考える際においても言えることですが、やっぱり発想や表現の元となるのはデッサンをすることではないでしょうか。あとはデッサンのように実際に手を動かさないとしても、身近にあるもの……たとえば、花や空や雲。日常的にそばにある自然の風景を“そういう目”で見ることも、新しいものを生み出す際のインスピレーションの源になっていると思います。工房を構えているこの土地は山や田んぼに囲まれた、とても緑豊かな場所。静かで穏やかな時間がゆっくり流れていて、もの作りをするのにうってつけの環境です」。

 

 

—自分だからこそ作れる、強さを感じる器を作りたいと語る田中さん。—

「今後試してみたいなと思っているのは、赤や金などの上絵の具を使った器。呉須のブルーと金ってすごく相性が良さそうだなと、少しずつ構想を練っているところです。実は以前、知人から、私が作る器は“個性が強すぎる”と言われたことがあって。自分自身ではそんな風に感じていなかったので正直驚きましたが、きっとそれが私らしさなんだろうなと腑に落ちた部分もありました。もの作りを続けられるうちに、何かもうひとつは自分らしいものを新たに生み出したい。どこかに強さを感じるような器をこれからも作りたいと思っています」。

—日々一人で作陶に向き合い、繊細な模様を丹念に描き上げている田中さん。『陽貴窯』から生み出される器は、今後どのような姿へと進化をしていくのか。まだ見ぬそんな器を思い描く旅は、今もなお続いている。—

 

 


陽貴窯
住所:愛媛県東温市樋口乙96-25
電話:089-964-7421


Profile:田中貴美子(愛媛県出身)
武蔵野美術大学短期大学部卒業後、美術・芸術創作の仕事に従事。1991年から『梅野青興陶園』で陶芸を学び、2005年に『陽貴窯』を開窯。日用食器を主に作陶。

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